書評:「お役人の無駄遣い」住田正二(JR東日本最高顧問)

    読売新聞社 1998.3.2第1刷 ¥1,400

                     (松岡町立図書館 510:ス)

JR東日本の最高顧問だから、新幹線を題材にしているかと思いきや、中身は港湾である。我が福井県の福井港も「百億円の釣り堀」として紹介されている。最近は厚生省に始まって、大蔵省、防衛庁等々、官僚の不祥事が相次ぎ、「お役人の…」というと、どうも薄っぺらな官僚攻撃臭いと思って読んでみると、内容は意外と濃い。「大型公共埠頭」の問題点を元運輸官僚らしくかなり突っ込んで追求している。

筆者は「これまでに建設されている在来船用公共埠頭は、その能力に見合うだけの利用がされておらず、まだ十分に余裕がある」、コンテナ埠頭も同様であるとし、「公共埠頭の使命は終わった」「これから公共埠頭を造っても十分利用されることはとても期待できない」と主張する。「本来誰でも使えるという公共の概念と、流通経費がかかる大量の貨物という概念は相容れない…公共埠頭で大量の貨物を陸揚げすると流通経費の負担が大きくなるとともに、大量の貨物を保管する広い面積の野積場を専用使用する必要がある。しかし、公共埠頭であるだけに専用使用には制約がある。大量の貨物を扱う荷主にとって流通経費を減らすことが至上命令になっている現在、公共埠頭のメリットは少なくなってしまった」という。

海上輸送による物流というと、港湾だけを考えがちであるが、物流というものは、荷揚げ・保管・消費地への距離・陸上輸送などを含めてトータルな原価計算をしなければならない。確かに、港湾施設の長期計画にはこうし観点がすっぽり抜けているようである。「ハード面に重点を置き、ソフト面を軽視している」のである。公共事業でも、金利、減価償却の概念を導入すべきであろう。

筆者は「余り利用されていない公共埠頭を専用埠頭化する」ことを提案している。「福井港や鳥取港などは、一部の施設を残し、他の施設は専用使用を認めるということで一般に公募してみてはどうだろうか。うまく使ってみせるという企業も出てくるかもしれない」という。検討に値する提案ではなかろうか。「港を造れば船は向こうからやってくるという甘い考えは…速やかに捨てなければならない」。

また、コンテナ船についても鋭い分析を行っている。日本とアメリカを往復するコンテナ船の場合、「一度に大量のコンテナを運ぶより、到達時間を短縮することが求められている。」「そこでこの航路では2700個から3600個積みのコンテナ船(水深14メートルもあればよい)が主流になる」京浜港や阪神港でも扱うコンテナ量は「週1便につき千個程度で2千個も集まることは少ない」という。つまり、四大港でさえ、水深14メートル以上のコンテナ埠頭は必要ないということである。ましてや、東北や北陸などの東南アジア航路のコンテナ船は外国の小型船ばかりだから、それ以下の10メートルとか12メートルとかの水深で十分ということであろう。しかも、「週5便ぐらいのコンテナ船が寄港しないと、投資効率があるとは言えない。」と指摘している。

「港湾の建設、管理も、港湾法の本来の方針である地方自治に任せ、補助率を下げ、地方公共団体の判断で港湾の建設を決める」ようにする。「地方公共団体は固有の財源を大幅に捻出しなければならない仕組みにすれば、地方公共団体もその施設が十分有効に使われているかどうか検討せざるを得ない。」「ポートセールスによって地元の発展を図るというなら、港湾管理者は自分の金で競争すべきである。国から補助金をもらいながら、自分の港の方が便利だと競争してみても始まらない。」。全くその通りである。

筆者は予算の無駄遣いをなくす処方箋として「上級公務員に経営感覚を持たせる」「担当者の責任を明確」にする。「高率助成をやめる」「予算に関する情報公開」「国民代表訴訟制度の創設」等々、様々な具体的提案をしている。予算編成についても「第一次編成権を各省庁に与える必要がある。」としている。各省庁に編成権を与えると、さらに予算の無駄遣いが増えるのではないかと心配になるむきもあるが、現実の予算査定は「各省庁の厖大な各種の事業全てに通暁し十分な審査能力を持つことなど、神様でなければとても無理」なのである。専門的・技術的知識もなく、現場も知らない大蔵省の担当官に必要性の無い事業を見抜けといっても無理があろうし、そうした予算査定行為自体が人的・時間的無駄でもある。

ところで、今回の防衛庁調本の汚職事件では「背任罪」が適用されることとなった。国防に必要があるという錦の御旗の元、弱小の防衛産業保護するためと称して、自衛隊装備品の原価計算を企業の有利なように取り扱ってきたことが“背任”になるということになった。これは、これまで業界優先・生産者優先のためなら何でもよいとしてやってきた省庁に大きな牽制となろう。